脊髄反射で旨い料理とは

寿司ふじの代名詞である「脊髄反射で旨い料理」。それは、口に入れたときに脳味噌を介さず、反射的に旨い!と唸る料理のことです。これに至った経緯を寿司ふじの歴史と共にご説明させていただきます。

 

—-大大将が作りだした「寿司ふじ」—-

大大将は広島の尾道で修行し、満を辞して故郷の滋賀県に寿司屋を開店させました。昭和51年3月の創業当時、ほとんど滋賀県にはなかったふぐ料理やすっぽん丸鍋がおいしいと評判を呼び多くのお客様に来ていただきました。寿司屋として出発はしましたが、旨いものを食べていただきたいということから、次第に料理屋になっていきました。

もちろん、今でも寿司に手を抜いておりません。「お前の体温は高いから、ろくな寿司が握れない」と言われた修行時代。そこで諦めず、独自の手数が少ない握り方を開発、手早くそしてふんわりと寿司を握る新しいやり方を考案。さらにできるだけシンプルで素材の良さを引き出す仕込みで、今もなお現役で握り続けております。

お客様が喜んでいただける提供方法はどのようなものか?自然に行き着いたのが、現在の寿司ふじのスタイルの原型である、旨い料理で始めて、旨い寿司で〆るです。

次々においしいものをおまかせ料理として提供し、大津の見つけにくい場所にもかかわらず、ありがたいことにもう少しで半世紀と言う長い間、商いをさせていただいております。

「ぐちゃぐちゃした料理はよくない。食材の輪郭がくっきり見えるような料理が理想」と大大将。

創業間もない頃の大大将(昭和52年?)

 

—-若大将が再発見した「寿司ふじ」—-

若大将が、大大将の厳しい指導によって一端の料理が作れるようになった頃の話です。見聞を広めるべく色々なお店に食べ歩きました。しかし、自分が思う表現したい料理との違いを感じました。考えれば考えるほど、旨いとは何か?旨い料理とは何か?がわからなくなってきました。

しかし、転機を起こすきっかけは意外に近いところに転がっていました。賄いの料理として、旬の脂がのった太い秋刀魚を炭火で焼いていました。滴る脂、レアとミディアムの間で火入れした身、シンプルな塩での味付け、炭の香。何も考えず、心の底から「旨い」という一言が出てきました。

この「旨い」と言う表現はおそらくこれ以上詳しく説明できない、何か人間の根本的なものであると気づきました(それは例えば感情のようなものではないかと思います)。脳の高度な論理や思考などを司っている部分というより、生物の根本的な脳の部分に備わる「感じる」といったものではないかと考えています。これらのような経緯を経て、若大将が行き着いたのは、言葉で説明が必要ない、

口に入れたら、有無を言わせない旨さがある料理が理想」という考えです。

若大将 令和3年

 

—-大大将と若大将が発展させる「寿司ふじ」—-

大大将の求めた素材の輪郭がくっきりわかる料理を土台として、若大将は自分の理想である、口に入れたら有無を言わせない旨さがある料理へと変化させ、大大将の理想の更なる先を目指しています。

こうして出来上がったお料理を、「口に入れた時に反射的に旨い!ってなるね」と常連様から評していただきました。このお言葉から朧げながら掴んでいた寿司ふじが作り続けるべき料理が明確なものになりました。それが「脊髄反射で旨い料理」です。

脊髄反射で旨い料理とは、口に入れたときに脳を介さず、反射的に旨い!と唸る料理のことです。そしてそれは、シンプルだけれどもシンプルすぎない、手を入れすぎていない故に食材の輪郭がくっきり感じられるお料理です。また、脊髄反射で旨い料理の対極にあるのが、しみじみ旨い料理だと考えています。それは微かな甘み旨みなど繊細な味わいを、食べ手側が探していくお料理だと考えています。寿司ふじでは、脊髄反射で旨い料理としみじみ旨い料理は、4:1ぐらいの割合で出てきます。

お料理だけではありません!いかに脊髄反射で旨い料理を美味しく食べていただくか、お料理を提供する順番もまた寿司ふじ独特のものです。たとえば、「メインとなるようなお料理(例えば松茸の塩焼き)を最初に持ってきて、また終盤で異なるメインとなるお料理をお出しする」といった、その時その時のお料理によって異なる出し方をしております。

そして最後に、旨い寿司で〆る。これが現在の大大将と若大将が作り上げた寿司ふじのスタイル。

 

—-お客様と作る「寿司ふじ」—-

「脊髄反射で旨い料理」の中には、寿司ふじだけでなく、お客様のお力も借りなくてはならないものもあります。そういった意味では、寿司ふじは我儘な店です。「最高に旨い状態」のお料理を食べていただくために、例えば鰻の白焼きなどは、8割ほどしか火入れをせず、最後の2割をお客様にお願いしております。そうすることで脂がブシュブシュなっている、真の意味の焼き立ての鰻が楽しめます。さらに、お客様自身で、ふわふわとカリカリの状態が良いか選んでいただいております。このような、最高に旨いものを作るために、お客様と寿司ふじが協力して完成させるお料理がしばしば出てきます。こういった料理はお客様との共同作品であると考えています。

 

若大将は次に「口に入れる前から旨い料理」に挑戦しています。が、もう10年ほどかかりそうです。